2014年3月10日月曜日

『ラダック/懐かしい未来』


■ 原 題   Ancient Futurs― Leaning from Ladakh
■ 著 者   ヘレナ・ノーバーグ・ホッジ
■ 翻 訳   『懐かしい未来』翻訳委員会

Amazon書評   
1975年、ヒマラヤ山脈の西端部ラダックに調査に入ったヘレナ・ノーバーグ・ホッジの膨大なフィールドワークの結晶。ラダックの伝統的な生活を手放しで礼賛しているわけではありませんが、人々の生き生きとした暮らし、そしてそれが壊れていく様子、どの章を読んでも心動かされます。
第1部 伝統:近代化以前の暮らしが生き生きと描かれています。夏は暑く、冬は厳しい寒さ、沙漠の中の小さなオアシスのような場所で、人々は生活を楽しみ、ゆったりとした時間が流れています。現金収入はほとんどありませんが、外部との交易で入手しなければならない物資は少なく、互いに助け合うことで労働力を補います。ヘレナは、お金はなくても、つつましやかで豊かなラダックの人々の暮らしを活写しています。
第2部 変化:1980年代以降、急激に起こった観光が貨幣経済を持ち込みます。ヘレナは、近代化によって壊されていく伝統的な生活を冷静に、しかし、深い悲しみをもって描きます。それは、単なるノスタルジーではありません。生活の質の劣化と貧困。豊かなグローバル化した経済に「開発」の負の側面がとてもリアルに描かれているのです。現場にいて、変化を見続けた者だけが語りうる力をもった言葉が並びます。
第3部 ラダックに学ぶ:ヘレナは、西欧型「開発」の限界と問題点を明らかにし、もっと違う開発が必要である、と説きます。その土地の自然と調和し、世界中の誰をも不幸にしない開発の仕方を求めなければなりません。私たちは、ラダックの人々の伝統的な暮らし、そして「近代化」がもたらした、生活と自然の破壊を学ぶことができます。

本書が出版されたのが1991年、日本語版が出るまでに11年かかっていますが、本文を読めば、その理由が良くわかります。これほどまでに丁寧な訳文を書き起こすための苦労はいかばかりだったでしょう。日本語としてこなれよく、しかも現地の事情を熟知していなければ書くことのできない訳注が読解を助けてくれます。美しいカラー写真や本文中のモノクロ写真も、ラダックへの関心をかきたてる力を持った良書です。





「押し寄せる近代化と開発の波の中で、ヒマラヤの辺境はどこへ向かうのか? ラダックに学ぶ環境と地域社会の未来」(帯書き)―― 拙ブログのサブタイトル(キャッチフレーズ?)は、本書の書名から拝借したものです。
(江田 敏昭)





0 件のコメント:

コメントを投稿