設立趣旨書(案)
1 趣 旨
およそ30年後の2040年、奥能登2市2町の人口は、2010年国勢調査時点の半分以下に減少すると言われています(国立社会保障・人口問題研究所.平成25年3月推計)。それは、一見すると、地域社会の存立を脅かす程の勢いにも見えますが、一方で、IターンやUターンにより都会からこの地へ移って来る人たちの話も、最近はよく耳にします。近年、「里山」あるいは「里海」という言葉が脚光を浴びていますが、彼らを能登へと駆り立てるのは、この言葉に象徴されるように、この地に今なお残されている豊かな自然だけではなく、その地で暮らしてきた人々が長い時間をかけ日々の営みの中で培い継承してきた生活習慣(文化や風土)をその風景の背後に感じ、ある種の懐かしさや憧憬を覚えるからであるとも考えられます。
しかしながら、奥能登に住む人たちの中には、人口の減少、経済の衰退だけを憂い、そこに存在することを当然のように感じてきた自然景観やこの地に根ざした文化が、実は、言うなれば「一周遅れのトップランナー」であり、現代の日本の中で貴重かつ希少なものであることに、いまだ気づいていない人も見られるようです。そしてまた、誇りを持ってそれを地域の外へ発信しようとする試みも、まだまだ不十分であるように思われます。
私たちは、先人たちにより営々と引き継がれてきた「里山・里海」の自然や文化を単純に墨守するのではなく、そこに新たな創意と工夫も加えたいと思います。今ある里山・里海としての風景や生態系を保持しつつ、なおかつ、この地に暮らす人々が、今後も自立的に生き生きと日々の営みを継続していくことが可能な(内発的な)方途を探り出すとともに、さらには、行政や教育研究機関、志を同じくする他のグループや団体とも協働して、それを具体的な実践に移していきたいと考えています。また、これらの調査研究、実践活動を一過性のものとせず、地域の内外で人々の交流を拡げ ながら、現存する奥能登の風土に磨きをかけ、次代へとバトンがタッチされていくよ う、ICTなどの各種媒体を活用した情報発信にも努めていきたいと考えています。
日本海に鵜の首のように長く突き出た能登半島。その尖端の奥能登は、言わば「終着地」のように見えますが、それと同時に、「懐かしい未来」に向けての風が吹く「始まりの地」でもあると、私たちは確信しています。里山・里海文化の継承と創造、そして、域内や域外を問わず、さまざまな人々の間で交流が拡がっていくことを願い、私たちは、この法人の設立を決意しました。
2 設立に至るまでの経過
この法人の設立に賛同する者の多くは、金沢大学が平成19年度から実施してきた「能登里山 マイスター養成プログラム」の修了者です。このプログラムは、①環境に配慮した農林漁業に取り組む「篤農人材」、②一次産品に二次(加工)、三次(サービス)の付加価値をつける「ビジネス人材」、③篤農人材やビジネス人材をつなぎ、地域ぐるみで新事業を創造する「リーダー人材」など、能登が必要とする次世代の人材養成を目的に実施されているものであり、これまでに60人を越える修了生(東京など大都市部からの移住者を含む)が巣立っています。
修了後の各自の活動分野はさまざまですが、これまでにも、折に触れて奥能登の農家や有識者、リーダーの方々との学習会をはじめ、当地の団体やグループ(「NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海」、「まるやま組」など)との協働により、荒廃山林所有者と保全契約を締結した「能登半島里山里海自然学校」周辺の保全林の管理作業をはじめ、周辺荒廃水田のビオトープ復元作業、茅葺き屋根修復のワークショ ップの開催など、いろいろな実践活動に参画してきました。
また、メンバーの中には、里山・里海文化の継承・発展を目標に、美大生などと一緒に「里山アートディレクション」(珠洲市若山町)に参画したり、平成24年からは、「勝東庵」(珠洲市蛸島町)の見学会を開催するなど、これまでの奥能登にはなかった新しい分野の試みに参加する者もおります。
しかしながら、こうした活動と取り組んでくる過程で、次第に、自分たちの活動の趣旨や内容について、地元内外の人々に十分な認知と告知ができていないこともわかってきました。平成25年7月、珠洲市の公の施設「勝東庵」は、庵主であった勝田深氷氏の急逝を機に閉鎖されることになりましたが、これは、これまで修了生の有志などがボランティアとして参加してきた庭の手入れや見学会の開催などの活動が自己完結的で、地元や市外の人々にあまり認知されていなかったことにも、その一因があると考えています。
こうしたことから、今後は、さまざまな実践活動の企画・実施母体として「特定非営利活動法人テルミヌス」を設立し、これまでの個々の活動をできるだけ体系化し、能登半島全域で里山・里海文化や景観の保全等に関する調査研究活動をより深化させるとともに、広く地域の内外の人々の参画を求めていくことといたしました。
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